Slow Scan Television (SSTV) とは~第1世代

 SSTV はその名前から動画を送る方式だと考える人がいますが、残念ながら動画ではなく静止画を主に短波帯の電波を使って時間をかけて送る方式です。電波や電話回線で静止画で送る技術は恐らく電送写真がその始まりでしょう。 画像には多くの情報が含まれており、電波で多くの情報を送ろうとすると広い周波数帯域を使うか、時間をかけて送るか、のいずれかの方法を用います。電送写真は時間をかけて画像をスキャンして、得られた各画素を時間をかけて送ります。 広い周波数帯域を使うことは短波帯では不可能だからです。次々と送られてくる画素データを光の強弱に変換して、送信元のスキャンスピードに同期させて、直接印画紙に感光させていました。
 アマチュア無線家達は電送写真のように長時間をかけるのはアマチュア的には面白くないと考えました。そこで考え出されたのが画質をできる限り落として、1枚の画像を音声信号に変換して比較的短時間で送ろうという技術です。これがアマチュア無線のSSTVで、 カナダのVE1BELのグループが1958年に短波帯で画像を送ることに成功しました。この技術は1960年代にはソ連のヴォストークやアメリカNASAのマーキュリー計画、アポロ計画の宇宙船から画像を地上に送るシステムとして使われるようになりました。
Robot Model 70 SSTV Display  1970年代にはアマチュア無線界では白黒画像の水平・垂直の走査周波数をそれぞれ15Hz、8秒にスロー・ダウンし走査線も120本に減少させたシステムが確立しました。もう一つの問題は送られてきた信号をどのように画像化するかと言うことでした。 電送写真のように写真に焼き付けるシステムも作られましたが、主流は長残光型のブラウン管(CRT)を用いる方法でした。当時レーダに使われていた、少なくとも10秒間は残像が見られるCRTを用い、上部の画像が消えないうちに下部までスキャンして 全体の残像を薄暗い部屋の中で見たわけです。アメリカのRobot Research Inc.社が1970年代中頃に製品化し、Model 70 SSTV モニターとModel 80 SSTV カメラを発売しましたが、非常に高価だった記憶があります。面白い技術であったので 非常に興味はあったのですが雑誌などでその使用報告などを読むだけで、とても手を出すことは出来ませんでした。

第2世代~スキャンコンバーター

Robot 1200C Scan Converter 1980年代に入ると半導体技術が急速に発達します。ロボット・リサーチ社は送信されてきた画像データをデジタル化してメモリに蓄え、パソコンで1枚の画像として表示する、カラーのスキャンコンバータを1988年に発売しました。8031プロセッサーを基本に、 16kBのROMで制御していました。今の技術からすると信じられないのですが、当時のメモリー素子1個の容量は128kBでしかありませんでした。このシステムは2kBの画像データを12秒かけて送受信し、メモリーに蓄えてカラーブラウン管に表示するるという優れものでしたが、 非常に高価でした。しかし、フルカラー画像が音声レベルの通信で送受信できるというのは画期的なことでした。
 1990年代に入り、半導体のメモリー素子やLSIの価格も下がり入手がかなり容易くなったことから、国内のアマチュア無線の有志が国産のキャンコンバータを開発しました。それをキットで購入して組み立てました。1993年のことです。

NS-9100 Scan Converter Inside of Scan Converter NS9100
スキャンコンバーター NS9100 内部

Image Porter  当時我が国のパソコンはNECのPC98シリーズが全盛で、1991年にはようやく実用レベルに達したGUIであるマイクロソフトのWindows 3.1が発売されました。もちろん今のパソコンのように簡単に外部機器を接続することは不可能で、 スキャンコンバータを接続するためにインターフェースカードを購入してスロットに入れる必要がありました。スキャンコンバータを制御するには日本のアマチュア無線家がPC98シリーズ用に作製した、「イメージポーター」というソフトウェアを使いました。
今から考えると随分使い勝手は良くなかったのですが、このシステム・ラインアップを使い、当時の良好な電波の伝播状況と相まって、ずいぶん多くの局と交信しました。以下に実際に海外の局と交信して送ってきた画像をお見せしましょう。



HL1AQ - Korea HL1AQ - Korea

HL1AQ  Sung (韓国ソウル) 1993年5月2日交信

WG9B - USA

WG9B John (インディアナポリス USA) 1993年4月25日交信

KM6KN - KM6KN -

KM6KN Ray (サンディエゴ USA) 1993年4月29日交信

LU1BP - Argentina LU1BP - Argentina
LU1BP - Argentina LU1BP - Argentina

LU1BP Luciano (ブエノスアイレス アルゼンチン) 1993年5月26日交信

PU2KER - Brazil PU2KER - Brazil

PU2KE Gyoergy (ブラジル) 1999年3月14日交信

UA3AGY - Moscow UA3AGY - Moscow
UA3AGY - Moscow

UA3AGY Serge  (ロシア モスクワ) 1999年5月22日交信

SM5EEP SM5EEP

SM5EEP (Fagersta, スウェーデン)  1999年3月14日交信

HA9RG - Hungary HA9RG - Hungary

HA9RG Ati (Liskoic ハンガリー) 1999年5月1日交信

FR5AB - Reunion FR5AB - Reunion

FR5AB Roland (フランス領レユニオン島) 1999年5月28日交信

FR5IB - Reunion FR5IB - Reunion

  FR5IB Philippe (フランス領レユニオン島)  1999年5月28日交信

ページトップへこのページのトップへ

第3世代~パソコンのサウンドカード利用

MMSSTV  パソコンの機能向上に伴い、パソコンのサウンドカードを利用し、受信した音声をパソコンに取り込み、ソフトウェアで直接デコードする方式が主流となります。世界各国でフリーウェア、あるいはシェアウェアが作られましたが、2005年頃にJE3HHT 森 誠OMが MMSSTVと言うフリーウェアを公開されます。画像のエンコードには初期のRobot社が採用した方式以来、新しい方式が開発されてきましたが、このソフトウェアは全てに対応しています。また、送信画像作成のための機能も持っています。
このシステムで必要になるのは、無線機の音声出力と送受信切り替えのインターフェースですが、これは自作しました。送受信の切り替えはパソコンのRS232Cからのシグナルを使うためのインターフェースを内蔵しました。また、音声に関しては無線機と パソコンを直流的に分離するために1:1トランスを組み込んでいます。パソコンからの音声でスピーカーを鳴らすためのステレオ・アンプも搭載しました。

Homebrewed analig interface Homebrewed analig interface
自作したアナログインターフェースとその内部

 2019年に新しいトランシーバー、YAESUのFTDX-3000を購入しましたが、新しいトランシーバーにはUSBインターフェースが既に搭載されており、パソコン側にはそのUSBドライバをインストールするだけで、USBケーブル1本で全てをコントールすることが出来る ようになりました。
 インターネットが発達した今の時代、ギガバイト級のファイルでも簡単に交換できるようになり、今更なぜ小さな画像を時間をかけて送受信するのかと思われる方もおられるかもしれません。でも、自分の無線局から出た電波で、地球の 裏側の見知らぬ人と画像をやりとりするのにはロマンを感じているのは私だけではないでしょう。


ページトップへこのページのトップへ